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惑星のさみだれ

作者 水上悟志
巻数 全10巻
レーベル ヤングキングコミックス
出版社 少年画報社
掲載時期 2005年 - 2010年
ジャンル SF日常アクション
お気に入り度 ★★★★★★
おすすめ度 ★★★★★☆
備考 軽度な暴力描写あり

惑星のさみだれ」レビュー

あらすじ

ある日、雨宮夕日のもとに喋るトカゲが現れ、世界を救う騎士だと告げられる。そんなことには無関心な雨宮だが、『魔法使い』の作った泥人形に襲われ窮地に立たされる。そこに騎士が守るべき存在の姫・朝日奈さみだれが現れ、泥人形を圧倒的な力で蹴散らす。朝日奈の常人ならぬ精神に圧倒された雨宮は朝日奈に忠誠を誓い、そして地球を賭けた魔法使いと姫の戦いが始まる。

レビュー(1、2巻のネタバレ含む)

最初に言っておくと、2巻の途中まであまり面白くないです。知名度こそあまり高くないものの知る人ぞ知る名作のようで、私は評判からまとめ買いしましたが、1巻を読んでもあまり面白いと思えませんでした。面白くないというか、主人公の雨宮と朝日奈に共感できず置いてけぼりにされてしまいます。しかし、読み進めていくと加速度的に面白くなっていき、徐々にこの作品の本領を知ることになりました。
(以下、1,2巻のネタバレがあります)


喋るトカゲ曰く、地球を砕こうと企む魔法使いがいて、それに対抗する姫と騎達士がいるとのこと。雨宮はトカゲの騎士で朝日奈は姫。これだけならバトルものでありそうな設定なのですが、この二人がかなりの変わった人物。まず、雨宮はひねくれ者でトカゲに世界を救えと言われても協力しないと言って興味を示しません(それが普通の人の反応かもしれませんが)。そして、朝日奈はなんと自分の拳で地球を砕きたいというのです。さらに、雨宮はそんな朝日奈の迫力と気高さに圧倒され従者となることを決めます。それからは奇妙な主従関係が続き、雨宮と朝日奈は自らの手で地球を滅ぼすために魔法使いの泥人形と戦うことになります。
ここまでの雨宮や朝日奈の価値観や行動は非常に共感し難く、唯一の良心であるトカゲ以外も変な人ばかりであまりページが進みません。が、1巻の最後に登場する犬の騎士・東雲半月が物語に加わることで少しづつ話が盛り上がっていきます。東雲を含む他の騎士達の目的は地球を魔法使いから守ることです。つまり、物語は地球を砕くことが目的の正体不明の魔法使いと、魔法使いから地球を守り自らの手で地球を砕くことが目的の朝日奈・雨宮と、魔法使いから地球を守ることが目的の他の騎士達の三すくみとなります。朝日奈・雨宮は他の騎士達に真の目的(最終的に自ら地球を滅ぼす)がバレないように表向きは協力します。しかし、他の騎士達も曲者揃いで魔法使いから地球を守るという共通の目的のもとに互いの思いが交差します。

ここからがこの漫画の真骨頂です。1巻ではゆったりとしたテンポで進んでいたのが騎士達の登場によりどんどん加速していき、敵が強くなるに従い劇的な展開を迎えるようになります。序盤からは想像し難い怒涛の展開で3巻以降は最終巻まで手が離せなくなります。
加速するストーリー以外にも多くの魅力があります。一つはキャラクターです。ここまでで散々共感できないとディスっておいてキャラクターが魅力だと言っても説得力ないと思うかもしれません(自分もそう思います)。しかし、この作品のキャラクターは物語が進むにつれてどんどん魅力的になっていきます。こんだけ雨宮と朝日奈が共感できないと書いてきましたが、それは序盤の話。読み進むにつれて彼らの本質を知るようになり、どんどん好きになっていきます。騎士達も魅力的な人物ばかりで、この作品のファンで好きなキャラクター談議をしたら一晩中かかると思います。序盤でキャラが嫌いになって読むのを辞めてしまうのが一番もったいないです。ただ、全体的に達観した価値観を持つ人物が多いため、合わない人もいるかもしれません。
また、この作品はセリフも非常に魅力的です。記憶に残る独特の言い回しやシンプルで力強い言葉など、読み進めていくとお気に入りのフレーズに巡り合うはずです。
この作品の魅力を語ると尽くせないのですが、これ以上は言えません。というのも、是非ともご自身でその展開を味わっていただきたいからです。とにかく展開がアツく、キャラもセリフも非常に魅力的です。

まとめ

序盤は主人公やヒロインに感情移入ができず退屈ですが、キャラクターが増えるに従ってそれぞれの思いが交差し物語は加速します。ある意味どんな少年漫画よりもアツい漫画で、読めば読むほどこの作品が好きになります。とにかく3巻まで読んでくださいと書きましたが、是非とも全10巻一気読みして欲しい作品です。少しキャラクターに癖がありますが、どんどんこの作品の世界に没入していくでしょう。